上野の西郷隆盛像はなぜ浴衣?愛犬ツンと巨匠の葛藤に迫る歴史秘話
上野 恩賜 公園 西郷 隆盛 像は、緑豊かな高台から都心の街並みを静かに見守り続けている。春には桜吹雪が舞い、秋には黄金色の銀杏に抱かれるこのブロンズ像は、東京を象徴する風景として誰もが目にしたことがあるはずだ。しかし、この像の正面に立ったとき、ふと素朴な疑問を抱いたことはないだろうか。なぜ幕末の英雄が、凛々しい軍服ではなく着流しの浴衣姿で犬を連れているのか。その足元には、時代に翻弄された人々の思惑と彫刻家の執念が隠されていた。
年間を通して多くの観光客が足をとめるが、実は上野 恩賜 公園 西郷 隆盛 像が造られた背景には、単なる記念碑の枠に収まらない濃密なドラマが存在する。明治20年代の建立構想から完成、そして現代に至るまで、この像は常に人々の関心を集め続けてきた。現地に足を運ぶ前に押さえておきたい歴史的真相と、知ると鑑賞が何倍も面白くなる秘話を解き明かしていこう。
なぜ軍服ではなく浴衣姿なのか?除幕式で妻が叫んだ衝撃の一言
明治31(1898)年12月18日、冬の冷たい雨が降る中で盛大に行われた除幕式。幕が下ろされた瞬間、集まった群衆からは歓声とともに小さなどよめきが起こった。そこに立っていたのは、軍服に身を包んだ威厳ある大将ではなく、着物の裾を端折り、足元は草履履き、右手にはウサギ狩りの縄を持つあまりにも無防備な姿だったからだ。
式典に出席していた西郷の妻・糸子は、像を見上げた瞬間に「主人はこんな人ではございません」と思わず声を上げたという有名な記録が残る。西南戦争で賊軍の将として倒れた西郷の名誉が回復された後、追悼のために建立されたこの像だが、当時の政治情勢は複雑だった。あまりに威圧的な軍服姿は政治的摩擦を煽ると懸念され、結果として「日常の親しみやすい姿」が採用されたのである。
彫刻家・高村光雲の葛藤と宮内省との水面下の駆け引き
この大作を手掛けたのは、近代日本彫刻の第一人者である高村光雲だ。しかし、制作は困難の連続だった。西郷隆盛の本物の写真が一枚も現存していないという絶望的な状況からスタートしなければならなかったからである。
高村光雲は、親族の顔写真を掛け合わせ、関係者の証言を愚直に集めながら粘土をこね続けた。制作費は全国からの寄付金で充当されたが、デザインの方向性を巡っては宮内省や発起人代表の勝海舟らとの間で熾烈な議論が交わされた。国威発揚の象徴にしたい思惑と、西郷の温和な人徳を写実的に刻もうとする光雲の芸術的探求。その板挟みとなりながらも、光雲は妥協なき造形を模索した。
愛犬ツンに隠された歴史的真相:実はメス犬で別の犬がモデル?
西郷の傍らで凛と立つ愛犬「ツン」。薩摩犬の名犬として愛犬家の間でも知られる存在だが、実のところ銅像のモデルを務めたのはツンではない。犬の彫刻を担当した彫塑家・後藤貞行が制作に取りかかった際、本物のツンは既にこの世を去っていたからだ。そのため、別の薩摩犬である「サツ」などをモデルにスケッチが重ねられた。
さらに歴史的な記録を紐解くと、西郷が愛した本物のツンはメス犬だったとされるが、銅像の犬は体躯が雄々しく力強い特徴を持って造形されている。狩りをこよなく愛した西郷の素朴な日常を表現するためのモチーフでありながら、ここにも現実と芸術的演出の絶妙な交差点が存在している。
パブリックアートとしての再評価と東京都建設局の保護体制
建立から1世紀以上が経過した現在、この銅像は歴史的記念物という枠組みを超え、都市空間と響き合うパブリックアートとして改めて注目を浴びている。長年の風雨によるブロンズのサビや経年変化、巨大地震への耐震性維持は、現代の都市管理における重要なテーマだ。
上野恩賜公園を管理する東京都建設局では、定期的な3Dレーザースキャンや精密な表面保全作業を継続的に実施している。関東大震災や戦火を奇跡的に潜り抜けた強靭な構造は、明治期の日本が誇る高い鋳造技術と職人たちの誇りを現代に伝えている。
史蹟散策とドラマで深掘り!現代の観光・旅行業が注目する鑑賞ポイント
近年の観光・旅行業では、ただ有名スポットを巡るだけでなく、歴史のドラマを追体験する深い旅スタイルが主流になりつつある。幕末・明治維新史の激動が刻まれた上野の山を歩く史蹟散策において、この西郷像は絶対に外せない起点だ。
大河ドラマ『西郷どん』などをNHKオンデマンドで事前に鑑賞してから訪れると、目の前の銅像が放つリアリティは格段に増す。西郷が最期まで思いを寄せた故郷・鹿児島の方角、そして江戸無血開城によって守られた街並みを見詰めるその視線。背景を知ることで、ただの銅像が生き生きとした人間ドラマとして胸に迫ってくる。
下から仰ぎ見る角度に計算された視線誘導と造形美
現地で鑑賞する際にぜひ試してほしいのが、台座のすぐ近くまで寄り、角度をつけて頭部を見上げる視線だ。実はこの像、全身のプロポーションに対して頭部がやや大きめに設計されている。これは、高台の上に設置された像を地上の人間が見上げた際、遠近法によって頭が小さくすぼんで見えてしまわないよう、高村光雲が計算した視覚補正の技法だ。
あえて頭身のバランスを調整することで、仰ぎ見るものに圧倒的な威厳と包み込むような温かさを同時に与える。遠くからの全体像だけでなく、直下から見上げることで天才彫刻家の緻密な計算と職人技の凄みに触れることができるだろう。 (出典: 上野 恩賜 公園 西郷 隆盛 像(Yahoo!ニュース))